「ブタは空を見上げられない」は本当か?
よくある説(俗説)
ブタは身体の構造上、空を見上げることができない
ブタは首の構造が特殊で、上を向けないため、一生空を見ることができない。体のつくり上、真上を見上げる動作そのものができない、という動物雑学として語られることがある。
検証
この俗説には事実の核がある。ミネソタ大学の有蹄類解剖ラボガイドは、ブタの首には他の家畜と同じく7個の頸椎があるが、比例的に非常に短いと説明している。短く太い首と重い頭、肩まわりの体型は、ヒトのように頭を大きく後ろへ反らして真上を見る動きには向きにくい。一方で、「空を見上げることができない」と言い切るのは強すぎる。ブタは頭を多少上げることができ、横方向の視野も広い。家畜輸送の技術資料では、ブタの視野は条件により体の周囲300度近くに及ぶとされ、正面だけでなく広い範囲の視覚情報を得ている。つまり、立った姿勢で真上を直視するのは難しいが、空の一部を見ることまで不可能とは言えない。
実際の有力説
より正確には、「ブタは首が短く可動域が限られるため、立ったまま頭を大きく反らして真上を見るのは苦手である。ただし、上方向をまったく見られない、空を認識できない、という意味ではない」である。地平線近くの空、斜め上の対象、周辺視野に入る光や動きは見える可能性がある。体勢を変えれば見える範囲も変わるため、「空を見上げられない」は構造上の制限を面白く単純化した表現と考えるのが妥当である。
なぜ広まったか
ブタは地面を鼻で探る採食行動が目立ち、首も短く、上を向く姿を日常的に見かけにくい。その見た目と、首の可動域が限られるという解剖学的な事実が結びつき、「真上を見にくい」が「空を見られない」へ誇張されたと考えられる。短く覚えやすく、少し切ない印象もあるため、雑学として広まりやすい。
見分け方
動物の身体能力に関する俗説では、「できない」が何を指すかを分けて見る。完全に不可能なのか、通常姿勢では難しいのか、個体差や体勢で変わるのかを確認する。首の可動域、目の位置、視野、行動観察は別の論点なので、ひとつの特徴だけで『一生見られない』のような結論に飛ばないことが大切である。
出典
- Part 1: Neck – Dissection Lab Guide for Ungulate Anatomy— University of Minnesota Libraries Publishing
- Technical Note: Transport of Livestock by Land— World Organisation for Animal Health
- The role of light and vision in farmed ungulates and implications for their welfare— Frontiers in Animal Science
- Identification of a second gene associated with variation in vertebral number in domestic pigs— BMC Genetics