「働きアリの8割はサボっている」は本当か?
よくある説(俗説)
働きアリのうち8割はサボっており、実際に働いているのは2割だけだ
アリのコロニーでは常によく働く2割が全体の仕事をこなし、残り8割はサボっている。これはパレートの法則(2:8の法則)と重なるとして、人間社会にも当てはまる例として広く語られる。
検証
ある瞬間のコロニーを観察すると、確かに6〜7割前後のアリが動いていない状態が見られる。しかし「サボっている」という表現は実態と異なる。北海道大学の長谷川英祐准教授らの研究によれば、アリごとに刺激への「反応閾値」が異なり、閾値が高いアリは通常時は動かないが、活動中のアリが疲労・死亡した際に予備戦力として働き始める。よく働くグループだけを集めたコロニーはメンバーが同時に疲弊して機能停止しやすいのに対し、非活動アリを含むコロニーは長期的に存続しやすいことがシミュレーションと実験の両面から示されている。また長期観察では一定期間内にほとんどのアリが何らかの作業に参加しており、継続的に非活動のままなのはおよそ2割程度とされる。
実際の有力説
観察瞬間に動いていないアリが多いのは事実だが、それらの大半は「戦力温存中の予備労働者」であり、サボりではない。コロニーの長期存続には非活動アリが不可欠であることが研究で示されている。「8割サボっている」という数字と「サボり」という表現の両方が実態を誤って伝えている。
なぜ広まったか
「よく働く2割が全体の8割をこなす」というパレート則の話と混同されやすく、シンプルな2:8比率として記憶・共有された。また職場の怠け者を正当化する文脈や、逆に組織論として使いやすい話だったため、正確な意味よりも語呂のよさで広まった側面がある。
見分け方
「○割がXしている」という統計的主張は、観測の時点・方法・対象の定義次第で数字が大きく変わる。「ある瞬間に非活動」と「長期的に非貢献」は別概念であり、スナップショット統計をそのまま行動評価に使う俗説は疑ってかかるとよい。
出典
- Lazy workers are necessary for long-term sustainability in insect societies— Hasegawa et al. / Scientific Reports (2016)
- Who needs 'lazy' workers? Inactive workers act as a 'reserve' labor force replacing active workers— Charbonneau & Dornhaus / PLOS ONE (2017)
- 働かないアリも集団維持に必要 北大研究者が興味深い研究成果— サイエンスポータル / 科学技術振興機構