「ボス猿はメスがなることもある」は本当か?
よくある説(俗説)
サルの群れのボス(最上位個体)はメスがなることもある
サルの群れのボスはオスが務めるというイメージが強く、メスが群れのトップに立つことはないと思われがちだ。リーダーシップや支配順位はオス同士の争いで決まるというイメージから、メスボスは非現実的な話として受け取られることも多い。
検証
ニホンザルの群れでは通常、順位の高いオスが最上位を占めることが多いが、メスが群れ全体の第1位になった事例が複数記録されている。代表的なのは2021年、大分県の高崎山自然動物園で9歳のメスザル「ヤケイ」が70年以上の観察史上初めて群れ全体の第1位になった例だ。ヤケイは母親(当時のメス第1位)を倒したのち、さらにオスの最上位個体を組み伏せてトップに立ち、国内外で大きく報道された。また霊長類学の研究では、箕面B群など野生群でメスがリーダー的役割を担った事例も記録されている。ニホンザルの群れはそもそも「母系社会」であり、成体メスが群れの安定した核を形成し、オスは成長すると群れを離れる。メスが群れの実質的な核を担う構造ではあるが、支配順位の最上位はオスが占めることが大半だった。
実際の有力説
メスが群れの最上位に立つことは非常にまれだが、実際に起きており観察記録もある。ただし「ボスザル」という概念自体、現代の霊長類研究では使われなくなっており、代わりに「αオス」「第一位個体」などの表現が使われる。野生群の研究では、単一のボスが全体を統率するという単純な構造は実態と異なるとも指摘されている。
なぜ広まったか
「ボスザルはオス」という印象は、動物園や餌付け観察地での目立つオス同士の争いや、群れを引き連れる大きなオスの姿から形成された。野生群の実態や母系社会としての構造は専門研究での記述が主で、一般に広く知られる機会が少なかった。
見分け方
「通常はXだが、Yになることもある」という形の主張は、事実の有無と頻度の問題を混同しやすい。「まれに起きる」ことと「起きない」ことは別であり、「ほぼ起きない=絶対起きない」ではないことを意識するとよい。
出典
- B群第1位「ヤケイ」特集— 高崎山自然動物園
- メスザルが640頭のトップに君臨する「高崎山の変」— 日経ビジネス
- The matriarchal social order in the minoo-B Group— Primates / Springer Nature