「納豆で血液がサラサラになる」は本当か?
よくある説(俗説)
納豆を食べると血液がサラサラになる
納豆に含まれるナットウキナーゼという酵素が血栓を溶かし、血液をサラサラにする。健康番組や食品広告でも取り上げられ、毎日納豆を食べると血流が良くなると信じている人は多い。
検証
この主張には事実の核があるが、重要な前提が抜け落ちている。納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が産生するナットウキナーゼは、試験管(in vitro)の実験でフィブリン(血栓の主成分)を直接分解する強い線溶活性が確認されており、この作用そのものは科学的に確立している。問題は「納豆を食べた場合」の話だ。ナットウキナーゼはタンパク質でできた酵素であるため、胃に入ると胃酸とペプシンによって消化・分解され、アミノ酸になってしまう。酵素活性を持ったまま血液中に吸収されるかどうかは長年の論点で、一部の小規模な臨床試験では納豆キナーゼ摂取後に血液粘度の低下や血圧の軽度低下が報告されているが、試験の規模が小さく・対象期間も短いため、現時点では確立したエビデンスとは言えない。また「血液サラサラ」という言葉自体が医学用語ではなく、血液粘度・赤血球変形能・血小板凝集能など複数の要素を指す曖昧な俗語だ。消費者庁の機能性表示食品制度においても、納豆関連の血流改善を訴求した届出に対して「科学的根拠が十分ではない」とされた事例がある。なお納豆はビタミンK2を多く含むため、ワーファリン(血液凝固を抑える薬)を服用している患者には逆に血液を固まりやすくする方向で作用し、医師から納豆摂取を制限されることがある点にも注意が必要だ。
実際の有力説
ナットウキナーゼが試験管で血栓を溶かす活性を持つことは確かだ。ただし、食品として口から摂取した場合に酵素活性が体内で維持され、血液に作用するかどうかは科学的に確立していない。「納豆で血液サラサラ」という表現は、試験管レベルの事実を食べた場合の効果として過大に一般化したものとみるのが現時点では適切だ。
なぜ広まったか
1990年代にテレビ番組でナットウキナーゼの血栓溶解作用が特集され、「納豆は血液をサラサラにする食品」という認識が一気に広まった。納豆という身近な食品が健康に良いという話は受け入れられやすく、その後も健康番組や広告で繰り返し取り上げられた。試験管レベルの実験結果が、食べた場合の効果として混同されるまま普及した典型例だ。
見分け方
「○○に含まれるXという成分が体内でY効果を発揮する」という情報は、その成分が食べた後に消化・吸収を経てどうなるかを確認することが重要だ。試験管実験と経口摂取では条件がまったく異なる。また「血液サラサラ」のような非医学的な言葉が使われている場合、何を具体的に測定した結果なのかを問うとよい。
出典
- ナットウキナーゼについて— 日本ナットウキナーゼ協会
- Nattokinase: A Promising Alternative in Prevention and Treatment of Cardiovascular Diseases— Weng Y et al. / Biomarker Insights (2017)
- 機能性表示食品制度— 消費者庁