「南極ではどんなに寒くても風邪をひかない」は本当か?
よくある説(俗説)
南極では、どんなに寒くても人は風邪をひかない
風邪は寒さで起きる病気だと思われがちだが、南極はあまりに寒く乾燥していてウイルスも生きられないため、どんなに寒くても人は風邪をひかない、と説明されることがある。
検証
風邪は寒さそのものではなく、主にライノウイルスなど複数の呼吸器ウイルスによる上気道感染で起きる。南極の越冬隊のように外部との接触が長く断たれる集団では、新しいウイルスが持ち込まれにくく、呼吸器感染が少なくなることはある。1968年の南極越冬隊研究でも、上陸直後や交代要員との接触時には感染が出やすく、隔離が成立すると新規症例はまれになるという傾向が報告された。ただし、南極で風邪が起きないわけではない。1973年には17週間の完全隔離後に12人中6人が風邪様症状を順に発症した報告があり、マクマード基地ではライノウイルスやパラインフルエンザウイルスによる上気道感染も確認されている。
実際の有力説
より正確には、「南極は寒いから風邪をひかない」のではなく、「隔離された南極基地では外から風邪ウイルスが入りにくいため、流行が起きにくい時期がある」である。船や航空機、交代要員、観測隊員の移動でウイルスが持ち込まれれば、南極でも風邪様の呼吸器感染は起きる。寒さは体調や症状に影響しうるが、風邪の直接原因は感染であり、気温だけで発症の有無は決まらない。
なぜ広まったか
『寒いと風邪をひく』という日常感覚と、『南極では風邪が少ない』という隔離環境の事実が混ざった。さらに、極寒・乾燥・無菌に近いというイメージが強く、「ウイルスがいないから絶対ひかない」という覚えやすい雑学に変わりやすい。
見分け方
病気の俗説では、原因と流行条件を分けて考える。風邪なら、寒さ、乾燥、人の密集、換気、ウイルスの持ち込みを別々に見る。『その場所では少ない』と『絶対に起きない』は違うため、隔離集団の研究では外部接触の有無を確認するとよい。
出典
- About Common Cold— Centers for Disease Control and Prevention
- The epidemiology of respiratory infection in an isolated Antarctic community— A. S. Cameron, B. W. Moore / Journal of Hygiene
- An outbreak of common colds at an Antarctic base after seventeen weeks of complete isolation— T. R. Allen et al. / Journal of Hygiene
- Parainfluenzavirus upper respiratory tract illnesses in partially immune adult human subjects: a study at an Antarctic station— A. J. Parkinson et al. / American Journal of Epidemiology
- Rhinovirus infections in an isolated antarctic station. Transmission of the viruses and susceptibility of the population— E. C. Dick et al. / American Journal of Epidemiology